絶対に、こっちを向かないでください。
そう言って、黒子は黄瀬の背に身を預けた。
「え、ちょ、黒子っち!?」
「動かないでください」
「どうか、したんスか?」
どうもしないです、と、黒子は返す。
冷えた、何の感情も浮かばない瞳で。
黄瀬には見えていない。
挫折。
苦難。
喪失。
もう駄目だ。
ゆっくりと全てが黒く塗りつぶされていく。
もうどこにも希望なんてない気がした。
「…黒子っち?」
「…すみません。本当に、何でもないんです」
「…いくら俺でも、それが、嘘ってことぐらいは分かるッスよ」
「…そうですね」
黒子があまりにも平然と返すので、黄瀬は、苦笑してしまった。
「ねぇ、黒子っち。俺、黒子っちのこと、大好きッスよ」
「…そうらしいですね」
「らしいって…ちょっとは、信じてくれてもいいじゃないッスか」
「……」
「まあとにかく。…俺、黒子っちのためならさ、何でもするから。…だから、俺にできることなら、何でも言って」
「…」
「…うん。まあ、それだけ。…ごめん、何か、うまく言えないんスけど」
「いえ。……ありがとうございます」
黒子は、目を閉じた。
今黒子を悩ませていることは確かに黄瀬についてのことでもあったが
それは別段黄瀬が悪いとかそういうものではなくて。
だから黄瀬を責めることも、黄瀬に何とかしてくださいと頼むのも角違いもいいところだった。
戻ってきてくださいと、言ったところで、何も変わらないのだ。
変えられない。
こんなに近くにいるのに、もう、心は決して触れ合えなかった。
そのことが、より一層、黒子の心を沈ませた。
ただ、触れ合った部分の熱だけは、伝わっていくのに。
黒子はそっと、目を伏せた。
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