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ので、拍手とキリ番機能は停止させてもらいました。今までコメントありがとうございました!嬉しかったです!
更新は予約してますので、これまで通りにちゃんといくと思います。
暫く連絡は取れなくなりますが、これからも、よろしくしてくれたらうれしいです。
火神君に殴られた頬が腫れた。
十分に冷やさなかったのがよくなかったらしい。
別にボクも殴ったのだからそれほど気にしてはいない。
火神君が冷静になれるきっかけを作れたのだからそれでよかったと思っている。
別に自分の顔など守る価値のあるものではなかったし、すぐに治るだろうから問題は本当にないのだ。
だが、殴った方からすればどうか。
恐らくボクが殴った後は残らないだろう。
それなりに痛くはしたが、ボクの元々の力はそれ程強くない。
それに火神君は丈夫な人だ。
だからボクの被害の方が明らかに大きく見える。
気にしないでくれと言っても、恐らく気になるだろう。
それは中学の時で既に十分実感している。
出来るなら火神君に会いたくなかった。
しかし練習と学校をさぼるわけにもいかない。
仕方なくそのまま学校に行った。
まず気づいたのは伊月先輩で、あー腫れてるなーと声をかけられる。
見た目ほど酷くはないですよと補足する。
先輩は、まあ火神が悪かったし、いい薬になるだろと笑った。
いい人だと思う。
誠凛の人は、皆、やさしくて、暖かい。
時々、この人たちと出会うために、キセキはあんなことになったのだろうかなんて思ったりもする。
けれど、そうなったときとそうならなかったときと、どちらがいいと言われて、ボクは選ぶことができない。
どちらが幸せかと言われて、ボクには、どちらも切り捨てることができない。
火神君を見つけて、いつもは自分から挨拶するのだけど、それを控えた。
まあ彼は基本鈍感なのでそれに気付かない。
そういうところは美徳だと思う。
黄瀬君みたいに、常に申し訳なさそうにこちらをうかがわれても困るというものだ。
普通に朝練をして、それでHRぎりぎりに教室に滑り込んで。
余りにも普通だからすっかり忘れて、振り返った火神君を見て気が付いた。
火神君はこっちを見て、明らかに、やばい、という顔をした。
わかりやすい。
わかりやすすぎて、笑ってしまった。
「…っ!」
頬が痛い。
「…おい!何笑ってんだ!」
「…声が、大きいです…」
黄瀬君も大概わかりやすいが、彼もそうであるらしい。
しかも、他意はないようなので妙に毒気を抜かれてしまう。
「いえ…ちょっと、面白い顔だったので」
「…それを言うならお前の方が酷ぇ顔じゃねーか」
「そうですね」
「…痛むか?」
流してしまうのかと思えば、触れてくる。
よくわからない人だ、本当に。
少し、笑って見せる。
「平気ですよ。見かけが派手なだけです」
すぐ直りますよと付け加えた。
そうかと、いまいち納得してなさそうに、火神君は頷く。
「悪かったな」
「もう昨日謝ってるじゃないですか。たいしたことないです、ホントに」
「…おう」
「…むしろ、ちゃんと喧嘩してもらえて嬉しかったですよ。そういうガチな喧嘩はしたことがなかったので」
「…そりゃ、相手にならなさそうだしなぁ」
少し本音を言えば、馬鹿にされる。
怒りを込めて視線を送れば、彼は笑った。
彼のこういうところは、機嫌のいい青峰君に似ている。
…まただ。
最近、いよいよ火神君を彼らに重ねることが多くなった。
駄目だと思うのにそういうことばかり考えて。
勝手に傷ついて悲しんで自分を苦しめている。
火神君は火神君で、それ以外の何物でもないのに。
今のバスケが楽しければ楽しいほど。
虚しく拭い去れない何かが浮き彫りにされていく。
「火神君」
「あ?」
「ボクに、優しくしなくていいですから」
「はぁ?」
全く訳がわからなさそうだ。
いい。
わからなくていい。
「お願いだから、ボクが駄目になったら、駄目だと、言ってください。…叱ってください」
「……どうしたんだ、オマエ」
「…なんでもないんです」
火神君は正直で真っ直ぐで、そこがとても好きだ。
そして優しい。
ぶっきらぼうなのに、とても、優しい。
それに甘えたくない。
過去の幻影から逃れられないまま彼の優しさに甘えることだけはしたくなかった。
「…ボクは、きっとキミが思ってるより嫌な奴です。だから」
近づきすぎないのが君のため。
「言いたいことは、はっきり言ってください」
明確な境界線が引ければいいのに。
彼がボクに近づきすぎないように。
ボクが彼に近づきすぎないように。
「…言ってるよ、十分な。それにお前だって十分嫌な奴じゃねぇか」
「…心外です」
冗談めかして言ってみる。
ボクの心ごと、騙してしまいたかった。
「まあとにかく痛かったら練習無理すんなよ」
「大丈夫です」
「オマエのそれってあてになんねーんだよな…」
なります、と言って、唇を尖らせた。
余計なことを。
何も、何も、考えないでいられるようになりたかった。