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ので、拍手とキリ番機能は停止させてもらいました。今までコメントありがとうございました!嬉しかったです!
更新は予約してますので、これまで通りにちゃんといくと思います。
暫く連絡は取れなくなりますが、これからも、よろしくしてくれたらうれしいです。
冬場は、何もかも乾いている。
乾燥していく。
指先はささくれるし、唇は切れる。
でもそれだけならさして問題はない。
問題なのは、あかぎれだ。
手のひらにできてしまうと、致命的すぎる。
少しボールをいじっただけで傷口が開き、血を流す。
ガーゼやテープで覆うと、感覚が違ってパスが出しにくい。
かといってしなければボールが血塗れになる。
ハンドクリームはべたべたするので嫌いだが、つけざるを得なかった。
しかし今年もどうやら手遅れのようだ。
手のひらは見るも無残に裂けている。
こういう時こそ気付かないでくれればいいと思うのだが、やはり出血してしまうと人の目を引く。
やたらとハンドクリームを塗るよう促されたり、血行を良くするための漢方なんかを紹介されたり。
赤司君にまで傷が治るまではボールに触れるのは控えろと警告された。
こんなところでも役に立たないボクの体。
嫌になる。
ただでさえ差が開いているというのに。
彼らは凄い速さで進化しているのに。
ボクはどこにも行けず、むしろ停滞し、どうでもいいことに行き詰る。
もどかしい。
自分が無力だ。
憎らしい。
どうして、ボクには何もないのだろうか。
この前まで考えなくなっていた思いが胸をよぎる。
考えたくない。
考えなくていいのに。
考えても無駄なのに。
今は傷が治るまで、何もできることがないのに。
右手の傷口にガーゼを置いてテープで仮止めした上からテーピングをする。
利き手をつかえないので、酷く難航した。
テープが巻く前にくっつき、それを剥がすことに時間を割かれる。
周りは皆すっかりいなくなり、もういっそ部活に出なくても誰も気づかないんじゃないかと思った時、
ドアが開いた。
緑間君だった。
何か用事があったのか、遅くなったらしい。
こんにちはと挨拶し、手の作業に戻る。
また、縺れてしまった。
もう何回目かわからない。
「貸せ」
突如かかった声に上を見上げれば、緑間君が目前に立っていた。
躊躇しているとテープを奪われる。
くっ付いてしまったところを器用に外して、傷口に負担がかからないよう弛みと張りを使い分けながら、
あっという間に仕上げてしまった。
流石、毎日自分の指をテーピングしているだけのことはある。
あまりにも不器用にしているのを、見ていられなかったのだろうか。
「どうだ」
「…ありがとうございます、よさそうです」
軽く手を動かす。
自分でするよりも、遥かに動かしやすい。
こんな技術ですら、劣っている。
「うまくできないなら無理に自分でやろうとするな。人を頼れ」
「…はい、すみません」
「保健室でも頼めばやってくれるだろう」
緑間君はそう言って、着替えを始めた。
相変わらず、随分素っ気ない。
変わらないことに何故か安心して、でもその理由がわからなかった。
手を握って、また開いた。
「緑間君は器用ですね」
「…オマエが不器用なだけだろう」
「いえ。多分、皆こんなに上手くは巻けないですよ」
「…褒めても何も出んぞ」
「知ってます」
そういう人だ。
ちゃんと話すようになってから約1年、それなりにわかってきたつもりだ。
「憎まれ口をたたいているなら、さっさと体育館に行け」
「そうですね」
この人は、実に合理的な生き方をする。
割り切り、達観して、そして努力できるところでは、どんな努力も惜しまない。
酷く、憧れる。
立ち上がり、タオルと水筒を持つ。
「テーピング、ありがとうございました」
彼を見ずに言う。
ああ、と返事が返ってくるのを聞いて、そのまま部室を出た。
外は薄暗い曇り空で、少し、寒かった。