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ので、拍手とキリ番機能は停止させてもらいました。今までコメントありがとうございました!嬉しかったです!
更新は予約してますので、これまで通りにちゃんといくと思います。
暫く連絡は取れなくなりますが、これからも、よろしくしてくれたらうれしいです。
休日に久しぶりに使った電車の中で、オレは、見つけてしまった。
会ったという言葉を使わなかったのは、ソイツが、寝てたから。
座席の隅に座って、舟を漕ぐこともなく、ただ眼を閉じている。
相変わらずの様子だった。
膝の上に載せられた文庫本も、何もかも、あの頃と、まったく変わらない。
どこかに逃げてしまおうかとも思ったが、既に荷物は網棚に載せてしまっていたし、何より人が多すぎて、そんな気にはなれなかった。
かといって、どうしろというのだろう。
コイツが目を覚ますことも、眠り続けることも、それはそれで嫌だと思った。
声が聞きたい。
眼が見たい。
コイツの、決して屈さない真っ直ぐな眼差しが。
でも話すことは何もない。
こんなところで会ってしまったって、口もきかずに別れるのが関の山だった。
だってわかりあえない。
それがわかっているのに、今更話をして、何がどうなるというのだろう。
電車は次々に駅に止まっていく。
その度に人々は出入りしていくのに。
オレ達だけが、何も変わることができなかった。
声をかける勇気もなく、今更気づかなかったふりもできないまま。
それでも電車は容赦なく進んでいく。
次の駅が、コイツの降りる駅だった。
それでも起きる気配がない。
疲れてるんだろう。
結局、ほっとくことが、できなくて、手を伸ばした。
「…テツ」
声を出すことを、こんなに躊躇したのは初めてだった。
額から指を滑らせるようにして、触れた。
柔らかな髪の感触。
なめらかな肌。
開かれる瞳。
ああ、ここはどこだろう?
何もかも、あの頃のまんまじゃねぇか。
「…あおみね、くん」
ぼんやりと、名を呼ばれて。
その瞬間に、全身に痺れるみたいな衝撃が走って。
オレは、思ってた以上に、コイツに会いたかったんだと思った。
わかりあえなくても、敵同士でも、話すことなんて何もなくても。
「次。降りる駅だろ」
少し躊躇して、そう声をかけた。
ぶっきらぼうな声になる。
言いたいのはこんな言葉じゃない。
「…そうみたいです」
相変わらずずれた調子。
そうじゃねーだろと。
普通、もっと慌てたりするだろと。
笑って馬鹿にしたかった。
頭を乱暴に撫でて、やめてくださいと怒られて。
それでも律儀に礼を付け加えられ。
また明日と、別れていた、別れることができた、かつてのように。
電車が、速度を落としていく。
テツが、立ち上がる。
予想外の揺れに、ふらついたのを支えてしまったのは、あの頃の癖だろうか?
今更遅すぎる感傷に襲われている。
眼を閉じればすぐにでもあの頃に帰られる気がするのに。
「…すみません」
「…いや」
「…起こしてくれて、ありがとうございました」
最後に、テツがオレを見た。
自然と上目遣いになる距離。
引き寄せてしまえば、簡単に連れ去ってしまうことができるのに。
オレはそんなことがしたいんじゃなかったからできなかった。
ただかつてのように傍に居たいだけだったのに。
何がどうしてこんなに変わってしまったのか。
「それでは。…あんまり、桃井さんを困らせないようにしてくださいね」
「うるせぇよ」
「…また、会いましょう」
「……ああ」
なんにも実のない会話。
それだけに変にエネルギーを使っているのが馬鹿らしかった。
互いにもう視線を向けることはなく。
電車の扉に阻まれて。
距離は、開いていくばかり。
あの時、テツが穏やかに微笑んでいたのを思い出した。
それは思っていたよりも、随分価値のあるものだったみたいだ。
こんなものもオレはなくしてしまったんだなあと。
今更になって、気が付いた。
ホントに、今更だった。
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