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ので、拍手とキリ番機能は停止させてもらいました。今までコメントありがとうございました!嬉しかったです!
更新は予約してますので、これまで通りにちゃんといくと思います。
暫く連絡は取れなくなりますが、これからも、よろしくしてくれたらうれしいです。
ありふれた休日に、ふと小腹がすいて、手近なファーストフード店に入る。
そんなよくある出来事の中でも、偶然は起こってしまうものだった。
ドリンクとバーガーを乗せたプレートを持って混んだ店内の中を進む。
気が弱い彼は、ゆっくりとその中を、スミマセンスミマセンと身を縮めて歩いていくしかできない。
どん。
「あ、」
「わっ!?」
バスケの試合中ならきっと堪えられるだろう衝撃にあっさり負けてしまう。
プレートがひっくり返って、バーガーが床に落ち。
ドリンクが、中身を相手に思いきりひっかける形で転がった。
「……」
「すっすいません!!すいません、ごめんなさい!!」
「あ、いえ、そんなに謝らなくても」
「いえホントに!!スミマセンスミマセン!!!」
身を縮めて、目に涙を浮かべて頭を下げる。
ただ、相手は慣れている様子でプレートを拾って、紙に包まれたバーガーが濡れる前に保護する。
「とりあえず移動しましょう。片付けは、多分店員さんがやってくれますね」
「あ、はい!!すいませんホント!!」
「……」
遠目に動き出した店員を見やりながら、声の持ち主はさっさと歩き出した。
空いた席に自分のプレートと相手のそれを置いて、鞄から取り出したタオルで汚れたズボンを拭う。
そこまで来て、やっと、彼は自分のすべきことに気が付く。
「わっわっ!?すみません、ボクもタオル持ってるので…!!っていうか弁償…!!」
「いえ、とりあえず落ち着いてください。多分ボクのだけで事足りますから」
ホントスイマセンと、まるで自分がぶつかられたかのように泣きながら顔を上げて、彼は、気付く。
彼が、チームメイト、青峰大輝の因縁の相手であることに。
数か月前、圧倒的な大差で、下したチームの一員であることに。
どんな関係なのか、青峰に問うこともできず、名前すらも知らなかった。
けれど彼だった。
自分よりも小柄で、大した取り柄があるようにも見えないのに、青峰に追い、縋り、最後まで、コートに立ち続けた人物。
「……誠凛の、」
「…黒子、テツヤです。桐皇の、9番の人ですよね」
「……はい。桜井良です。…あの、本当に、すみません」
冷静な瞳。
何にも焦ることもないような。
試合中ずっと青峰とボールを追い続けたであろうその瞳が、今、自分を見ている。
そのことに、酷く、緊張を覚える。
「いえ、まあ、そこまで目立ちませんし。家も近いので、大丈夫です」
「……スイマセン」
「…とりあえず、これ、拾っておいたんですけど。食べれますかね」
「あ、いやそんなこと心配してもらわなくても!!ほんと、スイマセン。弁償します…」
「そこまでのものじゃないですから。気にしなくていいですよ」
「いや、ホントすみません…」
これではボクの方が苛めているようではないかと、黒子は思いながら、とりあえず席に座るよう促した。
今更店を出るのでは不自然だったし、折角買ったバニラシェイクも、ここで飲んでしまうつもりだったから。
かかったドリンクは、そこまで大げさなものではなかったし、少しの不快感を別にすれば問題もなかった。
とりあえず、謝り続けられるのが居心地が悪いだけで。
桜井は促されるまま、大人しく席に座った。
酷く、項垂れて。
何かの事件の容疑者として、取り調べでも受けているような様子だった。
「…青峰君といるんだったら、そんなに謝ってばかりだと大変でしょう」
思ったことが、つい、口に出てしまった。
桜井は、はっとしたように黒子を見る。
「…いや、ボクなんかが意見していい人じゃないですから。…青峰サンは、ホント、すごくて…」
「…そう、ですか」
自分で聞きながら、どこか聞きたくないように、黒子は余所を見て、バニラシェイクを啜る。
「…あの。聞いても、いいですか」
「…何を、ですか」
「…アナタと、青峰サンの関係のこと…スイマセン…」
「……。そうですね。青峰君は、多分話さないと思いますし」
周りの喧騒が、酷く遠く聞こえる。
「…ボクは、青峰君と同じ帝光中のバスケ部にいました。そこで、チームメイトとして、仲良くやってたんです」
「……」
「昔は、彼は、もっと屈託なくて明るい性格でした。ですが、バスケで誰も彼に勝てなくなってしまって、彼はどんどん粗雑になっていきました」
感情の滲まない声。
溶けることのない氷のような声。
「それで、全中が終わった後、もう関わらなくなったんです。…それでも、元チームメイトとして、色々、因縁と言いますか。そういうものが、あります」
「……試合中に、話していたのは…?」
「…。大したことじゃ、ないですよ」
その影を落とした表情に、いくら黒子のことを知らない桜井でも、気付かないわけはなかった。
ちっとも、大したことではないだろうに。
試合の後の荒れようは、いつもの様子からしても、酷かった。
何故彼が変わったのかは、その前を知ることのない桜井にはわからない。
以前の彼がどんな人物だったのかも。
ただ、変わってしまった今の彼すらも自分たちは持て余しているのに。
変わっていく彼に、接し、衝突しなければならなかったかつてのチームメイトたちが酷く苦労したことは容易に想像ができた。
今の自分たちとは比べ物にならないぐらい距離が近かったことぐらい、夏経験した海常との戦いでも、わかっているのだから。
「……すいません。ボクの、聞いていいようなことじゃなかったですよね。…関係、ないし。…すいません」
「…いえ。チームメイトなんですし、関係ないってことは、」
「ないですよ」
打ち消すように言ってしまって、自分で驚いて顔を上げた。
彼の冷静な眼が、自分を見ている。
ああ。こんなふうには、なれない。
「すいません。でも、関係ないんです。ボクら、お互いのことなんて、ちっとも知ろうとしてないんです。それでいいって、皆、言ってます」
「………。キミは、どうなんですか」
「………」
わからない。
わからない。
けれど、けれど強いのだ。
わかりあうことなどできなくても、強くはなれるのだ。
勝てれば嬉しいのだ。
シュートが決まれば気持ちがいいし、チームに貢献できたと、十分、思えるのだ。
高望みなんてしようとも思わない。
今自分がチームの中で役に立てるだけで、幸せなのだと、思うから。
「…すいません。今のボクには、なんとも」
スイマセンと、繰り返す。
怖いのだ。
余計なことを言ってしまうのが。
考えてしまうのが。
そんな高尚なことが、許される存在ではない、ボクなんて。
「謝りすぎですよ」
「…すいません」
「……。…キミのように、否定しないでいてくれる人がいるのは、彼にとっても、支えになってるのかもしれませんね」
「……え?」
「…青峰君は、馬鹿な人なので。キミみたいな人が傍に居てくれることは、凄く、救いになってるんじゃないかと思います」
「そんな、ボクなんか、」
「なってますよ。そんな、自分を卑下することないです」
「……自分が傍に居られないから、そういうこと、言うんですか?」
言ってから、口を塞いだ。
なんてことを。
生意気にもほどがある。
ボクなんかよりずっとずっといろいろ考えて戦っているはずなのだ。
青峰サンが、認めざるを、得ないぐらいには。
黒子は、机の上の、飲み下されないまま、結露で埋め尽くされたシェイクの側面を見ている。
目的なく、脈絡なく。
「…そうかも、しれませんね」
「っすいません!!わかってるような口きいて…ホントにすいません!!」
「ボクは、青峰君よりも、自分を選んだんです。だから、もう、青峰君の隣にはいけないんです」
「……。そうなん、でしょうか」
誠凛に勝った後の荒れ狂う彼の姿を覚えている。
まるで、泣いているようだった。
孤独な人だと、思う。
誰も手の届かないところで、1人、どうしようもなく。
「…アナタは、青峰サンのこと、助けたいと思ってるんじゃないですか?」
「……」
「…ホントに青峰サンのことどうでもいいなら。…青峰サンと口きかないことだって、できるはずなのに」
「……」
「…すいません。…でも、そうなんじゃないかと、思ったんです」
生意気なことを言っている。
自分でもわかってる。
でも、でも。
でも、そうじゃないのか。
そうじゃないのか。
「…でも、キミは。…ボクが、青峰君を変えられるとも思ってないんでしょう?」
「………」
その通り。
だって、あの人が負けるなんて、きっと、ありえない。
あの人はきっと孤独なまま戦い続けて。
いつか、破滅してしまうような気がした。
独りで。
どこまでも。
「…アナタは変えられると思ってるんですか?」
「……はい」
眼が、こっちに向けられた。
真っ直ぐすぎて、心が痛くなるような瞳。
心臓を、鷲掴みにするような、強い強い光。
怖い。
眩しすぎて、痛い。
「……やめた、方がいいですよ」
眼を逸らして、俯く。
見ていられない。
だって、こんなの、ダメになれば総崩れになるだけだ。
皆で地獄に向かって走り降りるのか?
そんなの、馬鹿げてる。
間違ってる。
「ダメになるだけですよ。…そんなの」
息がしづらい。
つっかえる。
何を喋ってるのか、わからない。
「一緒にいてもダメになるだけですよ。…置いていかれます。…届くわけないじゃないですか」
顔を、覆う。
どうしたらいいのかわからない。
何をどうする術も思いつかない。
何を止めたいのか、何のために止めたいのか、何が起こるのを阻止したいのか、何が怖いのか、何が嫌なのか、わからない。
黒子が、席を立った。
音で分かる。
けれどそちらを見ることができない。
怖くて、もう、動けない。
「…ボクは、逃げたくないんです。…ただ、それだけです」
それだけ言って。
失礼しますと言い残して、彼は、出て行った。
馬鹿な人だと、思ってしまった。
なんでそんな生き方しかできないんだろう。
もう引き返すこともできないぐらい泥沼に浸かってしまったのか。
誰もいない向かいの席は、まるで初めから誰もそこにいないみたいだった。
彼に遇ったことなど、全て幻影のようだった。
また、彼と戦う日が来るだろうか。
彼が諦めないのならばこれから3年間は繋がりを絶てないだろう。
誠凛は、強い。
それでも桜井は、もう、戦いたくないと、思った。
どちらが絶望する姿しか想像できなくて。
永遠に、救いなど来ない気がして。
この日あったことは、誰にも言わず、心の中に留めた。
自分ですらも、何もなかったと、思い込ませ、た。
そうしなければ、平静を、保てる気がしなかったから。
なんか本誌がどうなってるのか全然わからないので、こういうあいまいなのは今のうちに公開しとこうと思いましてフライングしました。
この話は桜井が青峰を好きなのか黒子を好きなのかよくわからないところがミソです。
ひたすら逃げ腰な桜井。
何もかもから目を逸らしている。
桜井君あんまり好きじゃなかったんですけどこの話書いてちょっと見方が変わりました。
今の桜井には、青峰との関係の向上は望めないと思いますけどね。
これだけ謝ってくる人と短気な人はどうやってもうまくいかないと思います(汗)
でも桜井の立ち位置は、全て諦めて、青峰のもとにとどまってしまった、あり得るかもしれなかった黒子の象徴のようにも思います。
黒子もそうなってしまえば、もう青峰と分かり合えることはなかったんだなぁと。
青峰の何かが崩れるのは防ぐことができるかもしれないけど、青峰を救うことは永遠にできなくなってしまう。
あー本誌読みたい。
桜井書くために桐皇が出てるところ改めて見返したけどキツイですね…。
青峰を好きな黒子が好きすぎてつらい。
青峰の虚しさも黒子の寂しさも。
青峰も一人だし、黒子も一人だから。
今、私の中で、凄く青黒がきてます。