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ので、拍手とキリ番機能は停止させてもらいました。今までコメントありがとうございました!嬉しかったです!
更新は予約してますので、これまで通りにちゃんといくと思います。
暫く連絡は取れなくなりますが、これからも、よろしくしてくれたらうれしいです。
(約5年後ぐらい設定)
「一緒に住まないか」
「……え?」
黒子は、思わず聞き返してしまった。
とある喫茶店。
緑間は、コーヒーを、黒子は、ジュースを啜っていた。
お互い別々の大学に進んで、暫く経って。
地元での就職がめでたく決まって、久しぶりに顔を合わせた時のことだった。
2人は高校時代から、ずっと付き合っていたし、別々に進路が決まっても、定期的に連絡を取って、会ってきた。
もうそれは生活の一部のようになっていたし、今更会わないということが、不自然になりつつもあった。
それでもこの話は唐突だった。
「オマエも近くに就職が決まったのだろう?」
「あ、はい。そうですけど」
「いつまでも親元で世話になっているわけにもいくまい」
「そう、ですね」
「ならば、一緒に住めばいい」
「……そう、ですね」
それは、現状に満足していた黒子にとって、思いがけない申し出だったので、黒子はいささか戸惑う。
そんなことを、考えたこともなかったから。
むしろ、最近は後ろ向きなことばかりずっと考えていた。
だからこの呼び出しもそういった話ではないかと、内心、恐れてもいた。
「……緑間君、一人っ子ですよね」
「そうだが、なんだ」
「…家、継がなくてもいいんですか」
「…現代日本で、継ぐ、継がないの話はいささか古臭いな」
「そういう話ではなくて」
黒子は、少し、躊躇う。
「…結婚とか。しなくていいんですか」
緑間は、黒子を見た。
黒子は少し居心地悪そうに、けれど、ちゃんと緑間を見返した。
覚悟はできていると、そう、語るように。
緑間は、ため息をつく。
「オマエは、どうしてそう、1人で物事を発展させる?」
「…だって。もう、そういう年ですよ。…考えないと、いけないじゃないですか」
全てが手遅れになってからではもう遅い。
その為にはお互いもう自由にならなくてはならないではないか。
女性ではないけれど、いき遅れたなんてことになったら、それこそ、どうしようもない。
「オレはオマエがいればいい」
緑間は、コーヒーカップを持ち上げながら、何でもないよう平静を装ってそう告げた。
黒子は戸惑ったような、困ったような、複雑な表情を浮かべる。
「オマエは違うのか」
「……。ボクだって、そうですけど」
「ならば、何の問題もなかろう」
けれど、それでいいのかと、黒子は思ってしまう。
自分がいるせいで、彼が結婚できなくて。
子供も持てずに死んでいくのなんて、悲しくは、ないだろうか。
黒子は自分がちゃんと子供を育てられる自信なんてなかったし、別に欲しいとも思ってはいなかったが。
けれど緑間は違うだろうと感じていた。
彼はちゃんした家庭を持って、それを守っていける人だと思う。
それを、自分が壊していいはずがないのに。
「それとも、オレと住むのが嫌か」
「いえ、嫌ではないですけど…」
黒子は、語尾を濁して返事をする。
緑間の傲慢な態度にはもう慣れた。
大抵のことは腹が立つより先に仕方ないなと許すことができる。
余所の人よりはずっとお互いのことを知っていて、きっと共に暮らしたって新たな問題はそう生まれないに違いない。
けれどそれでいいのか?
「ならば、それで話を進めるぞ」
「……。キミは、それで本当に、いいんですか?」
黒子は、尋ねる。
こんな弱気な自分は嫌いだ。
はっきりと結論を出して、さっさと割り切ってしまいたい、本当は。
けれど、そんな簡単なことではなかったから。
いいのかと。
「愚問だ」
「……」
それでも黒子が判断しかねていることは、緑間にもわかった。
黒子は、昔から余計なことをグダグダと考えるやつだった。
そうしたほうがいいと明らかなことにも、でもこういう見方もあるだとか、いちいちうるさかった。
その面倒くささも、緑間はもう慣れていて、黒子がいつも慎重に考えようとしていることはわかっているのだけど。
どうしてこんなことも言わなければわからないのかと思いながら、緑間は不承不承、告げる。
「オマエ以外と共に暮らしたいなどと思わん」
黒子が即座に緑間を見て、そして、少し赤面して、俯く。
仕方のない奴だとは思いながら、その様子を見るのは、嫌いではなかった。
「じゃあそれで話を続けるぞ。いいな」
「……はい」
そして緑間は、近くのマンションの広告を机の上に並べて、語り出す。
2人の収入があるから、それほど狭い部屋にすることはないだろうとか。
プライバシーの為にちゃんと2人の部屋は分けようだとか、風呂はユニットではなくちゃんとしたものがいいだとか。
それがあまりにいつもの様子だったので、黒子は少し、笑ってしまった。
「緑間君、まるで、セールスマンのようですね」
「まあ、これぐらいできなくてはな。それより、オマエも、意見を言え」
「…はい。でも、基本的には、賛成ですよ」
駅との距離や、駐車場のことなど、細々したことを見て。
緑間の考えがおおよそ適切なので、黒子は殆ど彼の意見に頷くだけでよかったが。
それを見れば見るほど、彼が本気だと言うことがわかって、黒子は、申し訳ないと思うとともに、安心した。
彼のご両親には申し訳ないが。
ボクらは、2人でいたい。
ただ、そう思う。
2人で幸せに生きていければいい。
そして彼の必死な様子を見ていると、きっとそれが実現できる気がするから。
それがまるで奇跡のようで。
黒子は嬉しくて、幸せだと思った。
「…婚約指輪でも、買います?」
黒子は、茶化すように、言ってみた。
緑間は眉を寄せる。
「何を言っている」
「いえ、冗談です」
それでもいつか彼がそれを本気にして買ってきそうな気がして、黒子は可笑しかった。
まるでおままごとのよう。
それでもそれが一つずつ現実になっていく。
もうそう簡単には後戻りできない。
けれど、そのことが、幸せだと思うのだから、きっと、それはそれでいいのだった。
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