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ので、拍手とキリ番機能は停止させてもらいました。今までコメントありがとうございました!嬉しかったです!
更新は予約してますので、これまで通りにちゃんといくと思います。
暫く連絡は取れなくなりますが、これからも、よろしくしてくれたらうれしいです。
試合で、腰を壊した選手が出た。
前々から悪かったのを、ずっと隠していたらしい。
相当ボロボロになっていて、今は、入院していて、手術を控えている。
恐らくもうバスケ部に復帰はできない。
何回か手術しないと日常生活も危ういという噂もあった。
病院には行っていたと言うのは、嘘だったらしい。
そこまで悪化しているのにやり続けた。
それでこんな事態になったのなら、きっと、自業自得なのだけれど。
そこで、マネージャーたちが千羽鶴を折ろうと言い出した。
最低1人5羽のノルマ。
ミーティングが終わった後、皆でちまちまと、鶴を折る。
「んなもん贈られても嬉しくねぇだろ」
隙を見て抜け出そうとした青峰君が、見つかって言い放ったのがこのセリフだ。
どうしてそんなに素直に物を言ってしまうんだろう。
「なんでそういうこと言うの!?」
「バスケができねーこと思い知らされるだけだろーが」
周囲が、黙り込む。
一気に空気が冷えた。
ああ、彼は。
なんて人を絶望させるのが上手いのだろう。
気付いてしまう。
無意味さに。
「贈った方の自己満足だろ、そんなん」
マネージャーの子たちの善意が可哀想で、助け舟を出した。
「でも、願いは意味があると思いますよ」
ボクだってこんなもの貰っても嬉しくはなかったけど。
「たとえ戻ってこれなくても、戻ってきてほしいと、せめて元気になってほしいと思われいたって、伝わりますよ」
むしろ、悲しくなるだけ。
こんなことをされるほどまでに、距離が開いてしまったのだと。
もう戻ることはできないのだと。
「でも意味なんかねーよ」
わかっている。
バスケができないなら意味はないのだ。
どんなに心配されても、愛されても、思われていても。
そこにいられないならもう意味なんてない。
バスケができないなら意味はない。
「ある程度は形式的なものだ。放っておかれたと思わせるのも酷だろう。さっさと作れ」
緑間君の助けが、本当にありがたかった。
「……はぁー」
「そんなため息つかないでよ!」
「まあたまにはこういうのも悪くないッスよ」
黄瀬君は、3羽目の鶴を机の上に並べて、笑った。
あまり楽しそうに作るのも不謹慎だが、それも致し方ない。
「きーちゃん作るの上手くなったよねー」
「もうすっかり作り方覚えたッス」
「鶴とか簡単だろ…」
「でもこれ、よくなったらどうすりゃいいんスかね?」
「…記念に取っておくか、神社にでも奉納すべきだろう」
「すっごい処理に困りそうッスね」
「だから重いんだっつーのこーゆーのは」
鶴を摘まみながら、青峰君は零す。
たしかに下手に思いがこもっている分、処理しづらいものがある。
いつまでも飾っておくのも辛気臭い。
「まあないよしはマシってことだな。作ってもらえるほど思われてるなら、少しは希望があるだろう」
赤司君が呟いた。
彼の前には綺麗に折られた鶴がもう5つ並んでいる。
「人生の敗者にも、生きていく価値がなくては可哀相だろう」
「…赤司君」
あんまりな言い草に、寒気を覚えた。
「そんな無様に生き残るぐらいなら、いっそ死んだ方がマシかもしれないが」
「言いすぎだ。他人の人生の価値をお前が決めるな」
「やさしいな、真太郎」
「…赤司」
「キミ達が歪んでるんです」
「酷いな」
「オレもかよ」
「……」
難しいことは考えない方がいいのだ。
慣習で、するべきものだからとわりきれば、いちいち、複雑になることもない。
「ホント、皆バスケに命かけてるッスよね」
黄瀬君が、少し呆れたように呟いた。
本当に。
もっと、楽に生きられたらよかったのだけど。
「別に?無様に負けることを良しとしないだけだ」
「そりゃオマエは違うだろーし」
「キミは、バスケをなくしても生きて行けそうですからね」
「…オレだけ仲間外れなんスか!?」
「オマエは何事も適当だからな」
「オレ結構真面目にやってるッスよ!?」
確かに真面目だ。
日々、地道に練習を積み重ねている。
でも黄瀬君には仕事があるし、ルックスも、人脈もある。
他のスポーツだってきっとすぐに上達するだろうし、成績も、やる気を出せばすぐに上がるだろう。
バスケに拘らなくたって、生きていけるはずだ。
「それで生きられんならそれでいーだろ」
「…青峰っち?」
「オレみてーになったらヒサンだぜ」
「……」
相手がいない。
彼に勝てるだけのチームがいない。
バスケが好きなのにバスケを楽しめない、今。
「…でも、オレもひょっとしたらもう手遅れなのかも」
黄瀬君は、笑う。
一度楽しみを知ってしまったから。
今はそれがなくなってしまったけど。
諦めることはできないだろうか?
もう、囚われてしまっただろうか。
「ああ、そうかもしれないな」
「…本気ならそうなるのも仕方ないだろう」
「そういうもんなんスかねー…」
寂しい。
持てるものの、天才たる者たちの会話であるはずなのに、どうして、こうも、救いがない話になるのか。
「本当の天才は、バスケに選ばれるんだよ」
「?」
「逃げられないんだ。バスケをすることから。イヤになってもね」
「……」
赤司君はきれいに笑う。
人形のように整った顔は、恐怖すら感じるほどに笑いの形が似合った。
「嫌になったらやめるだろ」
「やめられないんだよ。上達したが故にそれに縛られてしまうんだ」
「…わけわかんねー」
「…やっぱり、好きじゃないと続けられないものじゃないんですか?」
「オマエは選手じゃないから、わからないかもしれないな」
「…そんな」
桃井さんは少しショックを受けたような顔をした。
マネージャーと、選手。
天才と、凡人。
その差には幾分の差があるだろうか。
ひょっとしたら同じかもしれない。
「ボクはバスケなんて愛していないよ。でも、そうするのが正しいとわかるからバスケをしている」
「…正しいとか正しくねーとかっていう問題なのか?」
「簡潔に言えば投げ出す理由もないし、才能をみすみす捨てる気もないということだ」
「…まあ、才能を生かすことには賛成だが」
「キャプテンの言うことっていまいち難しいんスよねー…」
さあ、ボクはどちら側にいるのか。
答えは、本当はわかっているのだけど。
きっとボクは、バスケにも見捨てられる。
バスケがないと、生きてなんていけないのに。
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