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ので、拍手とキリ番機能は停止させてもらいました。今までコメントありがとうございました!嬉しかったです!
更新は予約してますので、これまで通りにちゃんといくと思います。
暫く連絡は取れなくなりますが、これからも、よろしくしてくれたらうれしいです。
(「夏祭り キセキ」と対を為してはいますが、単体で読めます)
夏だ。
蝉の声が喧しく鳴り響き、太陽は容赦なく地面を照らす。
体育館は蒸し、流れる汗が床を濡らす。
水分を吸収してもすぐに排出されていく。
全てが同じことの繰り返しで、けれどその繰り返しが明日へ近づく一歩であることを知っているから、誰もが、それに立ち向かう。
けれど、休息は必要だ。
だからこそ、昔の人々もこんな行事を作ったのだろう。
日々に彩りを添えるために。
「夏祭り?」
「はい。近くの神社で今日あるみたいですね。幟とか立ってたでしょう?」
「へぇ…」
「多分センパイ達も行くんじゃないですか。どうします、行ってみます?」
「そーだな、折角だし、行くか」
「はい」
神社の前は混むだろうと予想して、適当に待ち合わせる。
Tシャツに適当なズボン。
それでも火神は、体格と頭の色から極端に目立つ。
黒子は、はぐれてもすぐに見つけられるな、と、そんなことを思った。
それは、かつてのチームメイトといるときもそうであったが。
「うわ、人多いな…」
「まあ仕方ないですよ。そういうものです」
「…はぐれんなよ」
「努力します」
そう答える黒子を火神を胡乱に見下ろした。
とてもじゃないが、信じられない。
すぐにいなくなるのが目に見えてわかる。
それでもはぐれる前から何も言えるわけもなく、2人は雑踏に飛び込んだ。
黒子はブルーハワイのかき氷を買って、ちまちまとそれを口に運ぶ。
火神は、たこ焼きやらフランクフルトやら、焼きそば、焼き鳥、焼きとうもろこしと、次々に買いこんでは、恐ろしい速さで消費していった。
「日本のって何でも少ねぇよな…」
「…キミの胃袋が規格外すぎるんですよ」
体質は日本人であるはずなのに、何もかも規格外。
「もっとがっと食べねーと食った気にならねーよ」
「ホントにすごいですよね…。彼らでも、」
言いかけて、立ち止まった。
彼らでも、そこまでは食べなかった。
体格が彼より上でも。
無意識に比べてしまっていたことに、背筋が冷える。
どこまで捕われているのか。
もう、随分遠いところにいると、わかっているのに。
「?おい?」
少し進んだ先で、火神が黒子が消えたことに気付く。
彼が慌てていることが黒子にはすぐに分かったのに、隣に行く気になれなくて、ただ彼を見つめた。
彼は人混みに慣れていないから、うまく人をあしらうこともできずに、流されていく。
このまま立ち止まっていれば、距離は開いていくばかりだ。
きっと追いかけてもいつかは距離は開き切ってしまうのだけど。
足に力を入れた。
こんなところで置き去りにされては彼が可愛そうだった。
あっさり人混みを抜けて、火神の腕を掴む。
「お…」
「こっちです」
随分と質量のある手を引いて、わき道にそれた。
行きかう人の少ない、休憩用にあるかのような小道。
「オマエ…勝手にどっか行くなって言ったろ…」
「ボクはどこにも行ってません。流されていったのは火神君じゃないですか」
「……。オマエがいなくなる方が早くなかったか…?」
それでも火神は自信なさげだったので、黒子は真実を教えようとは思わなかった。
だって、そうだから。
「…疲れたな…少し休むか」
そう言って、火神は草むらに座り込んだ。
黒子は、少し笑む。
「こんなので疲れるなんて、変わってますね」
「あのな、こんな人がぎゅうぎゅう詰めになってるところで落ち着ける人間なんていねーよ!」
「まあ、落ち着きはしませんけど」
「はー…」
「でも君は人より頭一つ飛び抜けてるんですから、まだましな方だと思いますよ」
「うえ…」
本当に嫌そうで、それが、少し面白かった。
黒子も、横に腰掛ける。
「…オマエ、それ、もうほとんど溶けてんじゃねーか」
「…あ」
色々考えていて、手が止まってしまっていたらしい。
カップの中に溶け残りの氷と、甘く青い水が溜まっている。
「…じゃあ、これ、あげます」
「!?いらねーよ!残飯係じゃねーぞ!」
「お腹いっぱいなんです」
「なんで氷でお腹いっぱいになんだよ!!どーいう身体してんだ!」
煩い火神から目を逸らして、空を見上げる。
明るい地上に照らされて、空は暗いのに白く、ぼやけている。
火神は不承不承それを飲み干して(もう平らげるとかそういうレベルではない)、甘さにうんざりしたように顔を歪めた。
「食えねーなら最初から頼むなよな…」
「食べれるかと思ったんです」
「……」
何もかも全然通用する気がせず、火神は黙り込む。
脱力して俯けば、周りの喧騒が、少し遠のいた。
祭りの明かりで明るいせいか、蝉が、まだ鳴いている。
「…懐かしいな。昔、まだこっちにいた頃に、夏祭りに行った気がする」
「…そうなんですか」
「おう。…すっかり忘れてたのにな…」
ふいに、蘇る。
景色と、音。
どこに行っても似たような、屋台の味。
ちょっとしたようなことが引き金になる。
優しかったり、暖かったり、悲しかったり、寂しかったり。
色んな、今までのこと。
「…そういうことって、ありますよね」
「そうだな…」
周囲の明かりが、少し落ちた。
何事かと思って、辺りを見回す。
少しして、空に激しい音とともに、花が、咲いた。
「…花火、か…」
「そうですね。…向こうでは、あんまりないんですよね」
「ああ。なんかでかいイベントとかなら別だけどな」
鮮やかに、華やかに。
一瞬で燃え尽きて、連鎖的に次が花開く。
様々な色、形、演出。
留め置けない、流れゆく芸術。
「綺麗ですね…」
「…おう」
暫く花火は続いて。
最後に派手な連続花火が広がった。
そして遠くでアナウンスが流れるのが、はっきりしないがわかり。
辺りの光が戻ってくる。
「終わりみたい、ですね」
「なんつーか、日本って感じだな」
「浴衣でも着ればもっと感じは出るんでしょうけど。…キミに合うサイズは中々ないでしょうね」
日本人離れしているから。
「オマエ今日はオレを人外にしてーのかよ」
「さあ、どうでしょう」
黒子は肩を竦める。
火神はため息を一つついた。
そして、黒子の手首を握って立ち上がる。
「よし、じゃあもう少し見て回るか」
「…何か一言言ってくださいよ」
引きずられる形になった黒子が文句を言うが、火神は気に留めない。
「今度ははぐれんなよ」
「…掴まれてれば逸れられません」
「オレが手を離してもちゃんとくっ付いてろ」
「……」
何の感慨もなく言い捨てて、火神は歩きはじめる。
早い、と黒子は思ったがあえて何も言わないでおいた。
じきに人混みに突入して上手く進めなくなるのだから。
かつて彼らと歩いた道を、今度は、彼と歩いて行く。
過去を消し去ることは、できないけど。
今ここから、新しく始めていきたい。
厚い背中に、そっと、額を預けた。
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