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ので、拍手とキリ番機能は停止させてもらいました。今までコメントありがとうございました!嬉しかったです!
更新は予約してますので、これまで通りにちゃんといくと思います。
暫く連絡は取れなくなりますが、これからも、よろしくしてくれたらうれしいです。
「黒子っちーもう疲れたよー」
半泣きで整った顔を歪めて、彼がボクに縋りついてくるのは、別に、珍しいことではない。
彼は他人との境界線が変なところで曖昧なのだ。
自分のような面白味もない人間に、なぜこんなことをするのか、意味が分からない。
女の子にでも言えば、たやすく慰められて、優しくして貰えるはずなのに。
敢えて、来る。
面白くもなく、優しくもなく、やわらかでもない、こんな、ボクに。
「今日は、なんですか?」
「ヒドイんスよ~オレマジで頑張ったのに~」
繰り返される泣き言を聞く。
「それだけですか」
「…それだけだけど…。オレ、愛情に飢えてるんスよ…」
「…女の子に言えば、いくらでもくれるんじゃないんですか」
「……それじゃ、意味ないんッスよ…」
声があんまりにも弱々しくて。
寂しげだったから。
何故かそんな行動をとってしまった。
「離してください」
「…うん」
突き放されて、さびしそうに。
しぶしぶと、外れた腕の持ち主に振り向いて。
そのまま飛びつくように抱きしめた。
均整の取れた身体は、あっさりボクを受け止めて、それほどの揺らぎも見せなかった。
「く、黒子っち!?」
「……」
無言で、彼の胸に顔を寄せた。
甘い、微かな品良い香り。
彼の匂い。
恐る恐る、といった様子で、手が動かされた。
先ほどのように、引き寄せるために、接触を深めるために、腕が回される。
彼の頭が寄せられた。
心臓の鼓動が、よく聞こえる。
眼を閉じる。
頼もしい。
男らしく、強く顔もよく、身長もある。
何一つ不足なところなんてなくて。
誰からも好かれて、愛される。
それだけの素材だ。
何もかも、完璧だ。
それなのに何故愛が足りないなんて。
贅沢な悩みもいい所だ。
けれど、腕の中が暖かくて。
強くて、想像以上に、安心したから。
なんだか負けてしまった気がして。
身体を離す。
名残惜しげに離れる手。
「座って下さい」
「え?」
「ここに。早く」
無理やりベンチに座らせて。
何か言う暇もなく抱きしめた。
サラサラな髪が、くすぐったい。
体格は相当大きくて。
そこら辺の大人と比べても遜色ないのに。
なぜこの人はこんなに子供っぽいんだろう。
驚いて硬直している頭を、そっと撫でた。
体のどこにも隙はない。
完璧なまでに美しく、綺麗だ。
こちらに寄りかかるように預けられた頭を、暫く、抱いていた。
少しは、気が紛れただろうか。
こんな抱きごたえもない、薄い体だけれど。
そっと、腕を緩める。
「満足しましたか」
「……あ…うん……。すっごい、幸せだったッス」
「そうですか」
相変わらず恥ずかしげもなく恥ずかしいことを言う人だ。
それならよかったと離れて、帰り支度をしようと背を向けた。
そしたらまた拘束された。
伸びてきた腕に。
まだ何かあるのかと、内心うんざりして、息をついた。
何か言おうと口を開いたその時。
「好き」
耳に声が届く。
「黒子っちが、すき」
慌てて見上げると、腕からは容易く抜けられた。
真剣な顔で、真っ直ぐに見つめられている。
反則だ。
どうしてこんなに綺麗なのか。
溜まった唾を、呑み込んだ。
見ていられなくて、眼を逸らせば、手が、顎に伸びた。
とっさに反応ができない。
思い通りに首を上げられ斜めから唇が重ねられる。
ほんのりと、熱く。
やわらかくて。
一瞬して、正気に戻る。
焦って胸を突き飛ばした。
切なげな瞳が視界に入って、でも、そんなことにかまっていられる余裕はなかった。
逃げ出したくてたまらなかった。
唇を拭って、そのまま飛び出した。
それ以上同じ空間にいることなど耐えられなくて。
走って走って、壁に手をついて。
荒い息を繰り返しながら、思い出してしまう。
思い出したくなんてないことだったのに。
唇の、感触。
忘れることなんてできるはずもないし逃げられるとも思えなかった。
どうしたらいいのかわからなくて、1人、そこに立ち尽くした。
唇が酷く熱かった。