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ので、拍手とキリ番機能は停止させてもらいました。今までコメントありがとうございました!嬉しかったです!
更新は予約してますので、これまで通りにちゃんといくと思います。
暫く連絡は取れなくなりますが、これからも、よろしくしてくれたらうれしいです。
「もしもし、黒子さんのお宅ですか?」
3月中旬。
私は彼に電話をかけた。
「…はい、そうですが」
「私、同級生の桃井です。テツヤ君は、いますか?」
「…ボクです」
「あ、テツ君?よかった、今回も留守電かなって思ってたから」
きーちゃんとかは、何度も電話をかけたみたいだった。
だって、会えないから。
見つけられなかったから。
でも繋がらなかった。
書置きとか、呼出しとかもしたけど、全然返事も、何もなかった。
「…すみません」
「あ、ううん。そういう意味で言ったんじゃないし。
…あのね、バスケ部の後輩からのよせがきとか、記念品とか、預かってるの。明日の昼、時間あるかな」
「はい。…面倒だったら、処分してもらっても、」
「ダメだよ。…受け取って」
語気を強くして言う。
テツ君は、情が厚いから、きっと、そんな無碍なこと望んではいないとわかる。
青峰君だったら適当に扱ってすぐゴミにしてしまうのが落ちだけど。
「…はい。どこに行けばいいでしょうか」
「私がそっちに行くよ。…こっちには、来づらいでしょ?」
だって近くには青峰君が住んでる。
会いたくないんだってことは、もう、よく知ってた。
「…そうですね…」
「安心して。誰にも言わないから」
「すみません。お世話になります」
「うん、大丈夫。…いつがいい?」
「14時ぐらいで、お願いできますか」
「うん、じゃあ、それで」
どうせ暇だった。
もう少ししたら高校の準備もしなくてはいけないけど、今は、本当に何もする必要がなかった。
「…中学、終わっちゃったね」
「…そうですね」
「……」
「……」
終わってしまった。
なんてあっけない。
凄く密度の濃い3年だったのに、過ぎていくのはあっという間だった。
「…テツ君、去年出来た新設校に決まったんだってね」
「はい」
「いい所だといいね。新しいから、きっと色々綺麗だよ」
「はい」
一緒に通えたら、どんなによかったか。
「…私と、青峰君のいくとこは、もう聞いた?」
「ええ。桐皇、だそうですね」
「うん。…それ以外は、皆ばらばら。綺麗に分散しちゃったよ」
「……」
示し合わせたかのように。
実際は、特に用事でもない限り話なんかしていない。
驚くほどばらばらになった。
これが当たり前の形みたいに。
それでいいんだろう。
卒業ってそういうものなんだろう。
でも、でも、これって、本当に、本当に、それだけなの?
「…私、本当は、テツ君と同じ学校、行きたかったんだ」
「…そうですか」
「うん。…言ってたでしょ」
「そうでしたね」
「うん。…でも。青峰君のこと、放っておけなかったから」
「…それで、いいと思います」
いつも、テツ君はわかってるみたいに物をいう。
凄い人だなって思う。
でも、何を考えてるのか、こっちには全然わからない。
「キミがいなくなったら、彼は本当に一人になってしまうでしょうから」
「…そこまでわかってるなら」
だめ。
言っちゃいけないよ。
言っちゃいけないよ、こんなの。
「そこまでわかってるなら、どうして。どうしていなくなっちゃったの…?」
止められなかった。
「私なんか、全然支えになれてないよ。テツ君がいたからアイツ、まだましだったんだよ」
「…」
「これからどうなっちゃうのか、全然わかんない。…怖いよ。怖いの、凄く」
涙が出る。
怖くてたまらない。
立っていられなくなるの。
どこかへ行ってしまう。
青峰君が、遠くに行ってしまう。
「お願い。テツ君、青峰君を捨てないで」
「テツ君がいなくなったら、青峰君、ホントに一人になっちゃうよ」
「私じゃだめなの。私じゃ、何もできないから」
私にできることなら何でもするけど。
それじゃ駄目なの。
足りない。
何も何もできない。
こんなこと言われたって困るだろうに。
テツ君だって、いっぱい考えたはずだ。
色々考えて選んだ選択なんだ。
私が口出しできることじゃないんだ。
こんな可愛くないことばっかり言って。
責めても、意味なんてないのに。
「大体、何も言わずにいなくなっちゃうなんて酷い」
それなのに口は勝手なことばかり言ってる。
「皆凄く心配してた」
「全部いきなりで、全然、わかんないよ」
わからない。
なんで、どうして。
誰か、教えてよ。
「…どうしてなの?」
「どうしてこんなことになったの」
「どうして、どうして…」
声が出なくなる。
嗚咽で、物が言えなくなる。
こんなの嫌だ。
こんなの嫌だ。
こんな終わり、認めたくない。
「桃井さん」
テツ君の声が、優しく響く。
やさしくしないで。
「ごめんテツ君。今ちょっと冷静に話せないから。…また、後で」
「…はい」
電話を切る。
静まり返った家の中が、怖い。
どうしてこんなことになってしまったの。
蹲って、膝を抱えた。
誰も心配してくれる人は、いなかった。
翌日。
テツ君の家に行くのは正直凄く気まずかった。
結局電話なんてもうかけられなくて、どうしていいかわからなかった。
でも行かなかったら、本当にこれっきりになってしまう気がして、無理やり、身体を動かして家を出た。
テツ君の家の辺りは、入り組んでて、凄くわかりにくい。
何度か行ったことがあったけど、用心していないと、辿りつくことはできない。
その辺りまで行くと、テツ君が立っていた。
「桃井さん」
「テツ君…待っててくれたの?」
「はい」
「…ごめんね」
案内されて、家の中に入った。
リビングに通されて、紅茶が出される。
「ごめんね、こんな、よかったのに」
「いえ。寒い中、わざわざありがとうございます」
どう間を繋げればいいのかわからなくて、カバンから寄せ書きと、
記念品のボール、リストバンドを取り出して、説明する。
寄せ書きは、ありきたりな内容で埋め尽くされている。
当たり前だ。
だってテツ君は、味方にさえも幻みたいだったんだから。
テツ君が、ボールを取り上げるその慣れた仕草にさえ、涙が出そうになった。
もう、こんな姿を間近で見ることもなくなるんだ。
「…桃井さん」
「…なに?」
「ボクは、バスケが、好きです」
「うん」
それは、よく知ってる。
見てれば、誰だってすぐにわかったはずで。
「でも、帝光のバスケは、ボクのしたいものとは、違った気がするんです」
「……」
「自分に嘘をついて、続けることだって、できたかもしれません。でも、それでは、楽しくないと思ったんです」
「…うん」
「このままでは、何もかも駄目になってしまう。そう思って、ボクは、この道を選ぶことにしました」
「…うん」
「ボクは、皆のことが好きです。それは事実です。皆を嫌いになったわけでもありません」
「うん」
「でも、ボクにはボクのバスケがあると思った。それを、試したいんです。
…酷いやつだと罵られても、仕方ありません」
「……」
テツ君を見つめる。
テツ君は驚くほど真っ直ぐな目で、私を見ていた。
「正しいのかどうかわかりません。結局皆傷ついて終わるだけかもしれない。でも、やってみたいんです」
「皆で駄目になっていく道を、歩みたくはないんです。
駄目になるかも知れなくても、せめて、変わるかもしれない、希望を信じたい」
「…」
「ボクは、ボクにできることをしようと思ったんです。…巻き込んでしまって、すみません」
「謝らないで、いいよ」
謝ることはないんだ。
だって、テツ君は何も悪くなんかないんだから。
そう。皆悪くなんてないんだ。
だから、誰も責めることなんてできない。
わかってた。
ほんとは、初めから。
勝手な押し付けなんだ。
大変だから助けてって、言うのは簡単だ。
守ってもらうのは簡単だ。
相手に全部押し付けて、自分だけ楽になることだ。
頑張るしかない。
私は、私で。
テツ君は、テツ君で。
「ごめんね、テツ君。私、酷いこと言った」
「いいんです。キミにはその権利があると思います」
「ないよ、そんなの。テツ君は自分に厳しすぎるの。…私だって、ちょっとは強いんだから」
笑った。
完璧になど笑えない。
だけど、大丈夫だって、笑ってみせることならできる。
「桃井さんは、十分強いですよ。…でも、あんまり無理しすぎることも、ないです」
「…テツ君には、敵わないね。なんで、いっつも見破られちゃうのかなぁ」
「皆が鈍感なんですよ。偶には言ってやったらいいんです」
「そうだね、うん。そうする」
そう言って笑ったら、ちょっと、涙が零れた。
でも無理やり止めようとは思わなかった。
今なら泣いていい、それが、許されてるような気がした。
「ねぇ、いつか、皆でバスケができるような。そんな日が、また来るといいね」
テツ君が差し出したハンカチを受け取って、呟く。
お願いだから、そんな日がまたありますように。
皆が楽しく、輝いて、プレイする所をもう一度見られますように。
私の一番幸せな瞬間が、どうかもう一度訪れますように。
「きっと、きます」
テツ君が、自分に言い聞かせるように言ったその言葉が、胸に沁みた。
どんなにつらくても。
諦めないでいようと、その時、決意した。
彼が戦い続ける、その限り。