忍者ブログ
黒子のバスケの2次創作ブログ。 キセキ中心の黒子受け雑食(黒桃有)で文章書いてます。お勧め→◇
最新コメント
[07/17 ちとせ]
[05/21 たなか]
[04/28 刹那]
[12/03 たなか]
[11/13 NONAME]
最新トラックバック
プロフィール
HN:
性別:
女性
自己紹介:
すみません、暫くPCに触れることができなくなるので、返信等一切できなくなります。
ので、拍手とキリ番機能は停止させてもらいました。今までコメントありがとうございました!嬉しかったです!
更新は予約してますので、これまで通りにちゃんといくと思います。
暫く連絡は取れなくなりますが、これからも、よろしくしてくれたらうれしいです。
ブログ内検索
最古記事
(03/01)
(03/02)
(03/03)
(03/04)
(03/06)
カウンター
カレンダー
06 2025/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
バーコード
[68] [67] [66] [65] [64] [63] [62] [61] [60] [59] [58]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。



高く伸ばした手が、宙を泳ぐ。



本屋の一角。
本棚が壁のように立ち並び、踏み台も近くには見当たらない。
目的の本が通常あるべき場所にはなく、ストック棚として使われている遥か上方に位置していた。

指先は届く。
だが、ぴったりと詰まった本棚の中から本を抜き出すには、それでは足りない。

バスケをするために短く切りそろえられた爪が、歯が立たないとでも言いたげに、本の表面を滑る。


後ろから大きな手が伸びた。
やすやすと本の縁に手をかけ、引き出すと、手の中に収めてしまう。

「何やってんだよ」
「…火神君」

何となく面白くなさそうな顔をした黒子に、火神は、ほらよ、と本をよこしてやる。
黒子は、しかし素直に本を受け取って、そして、ふっと頬を緩めた。
大事そうに、両手で持つ。

「…好きな本なのか」
「はい。…昔、図書館で借りた本なんですけど、また、読みたくなったので」
「ふーん…」

火神は生返事を返して、眼を逸らした。
本を殆ど読まない彼には、その気持ちはわからない。

「火神君は、何か本とか読まないんですか」
「あー?別に、必要ねぇしな…」

新聞なんて読まなくたって、TVで十分に情報は入ってくる。
一日だって、家事をしてバスケして、それですぐに過ぎていく。
物語はそもそも腹にたまらない。
日常が充実していれば、必要ないのだ。
それでもバスケ雑誌ぐらいは見たりするようだが、それでも、細かく読み込むわけではない。

漢字の読み書きがおぼつかないのは、そこにも原因がありそうだった。

「…火神君は、少し本を読んだ方がいいと思います」
「いや、いいって」
「火神君が読むなら、ライトノベルがいいですかね。ミステリーかファンタジーか…」
「オマエ人の話聞けよ!!」
「日本にいるのなら、もうちょっと語彙は要りますよ」
「…ゴイ?」

黒子は、これ見よがしにため息をつく。

「使える単語の量のことです。敬語だってちゃんと使えるようにならなくちゃだめですよ」
「だってなぁ…」

火神は嫌そうに顔を歪めている。
黒子は、そんな火神をしばらく見つめてから、すっと視線を落とす。

「アメリカに帰るんでしたら、話は別でしょうけど」

呟かれた言葉に、火神は黒子を見た。
表情を見せない角度で、黒子は歩き出す。

その態度がどういうことかわかって、火神は黒子の肩を掴んで引き寄せた。
どん、と、火神の胸に倒れこむ形で黒子は引き留められる。
いきなり引っ張られて、何をするのかと文句を言いたげにあげられた視線に、火神は真っ直ぐに応えた。

「帰んねーよ。オレだって、オマエとバスケするって決めたんだよ」
「…そう、ですか…」

黒子は、視線をそらしながら、ポツリと漏らす。
一見納得しているようで、していない証拠。
それでも誤魔化して、言及しようとするのを避ける、彼の習性。

それを火神は本能で理解していたから、がしがしと、乱暴に黒子の頭を撫でた。

「それにアメリカと日本なんて近ーもんだって!その気になれば、いつでも行ったり来たりできるし」
「…やめてくれませんか」
「しかし、アメリカじゃオマエもっと目立たねーだろうなあ…」

火神は黒子の抗議にも構わずに、息をつく。
あっちじゃ皆自己主張激しいし、と付け加えて。

「じゃあ、キミの傍を離れないようにしないといけませんね」

黒子はそっと、付け加える。

「それでもオマエ勝手にいなくなるだろ…」
「不可抗力です」
「あのな…」
「すぐに逸れちゃうかもしれませんね」

黒子は、火神を見ずに言う。
淡々と、冷静に。
何でもないことのように、唇を笑みの形にすら歪めて。

「見つけられなくなって、それっきりかもしれませんね」

火神は驚いた顔で、黒子を見た。
黒子は少し黙って、それから本買ってきますと歩き出す。

それをまた肩を掴んで引きとめた。

黒子は今度は踏ん張って足を止めるに留まる。
振り返ることを、しない。

「またですか」
「見つかるさ」
「……」
「っつーか、見つける。ってかオマエ、オレのいるとこに勝手に来るじゃねーか。会おうとしなくたって会っちまうだろ」

黒子は、火神を見上げた。
彼はあくまで大真面目で、その純粋さが、黒子には、とても眩しかった。

本気で言っているとわかるからこそ。

「…来てるのは、火神君じゃないですか」
「何だと?別に、行きたくて行ってねえんだよ」
「……本当に、見つけられると思います?」

別にミスディレクションに自信があるとか、そういうことではなくて。

「ああ。だから、言ってんだろ」

言い切った火神に、黒子は、少し泣きそうな顔をして、笑った。

しかしそれも、ほんの一瞬で。
次の一瞬には、レジに向けて、歩き出していた。

「じゃあ、その時はよろしくお願いします」

背中越しに、そう言った。

「ああ。よろしくされてやるよ」



そんな間違った日本語の、根拠もなく理不尽な理屈で放たれた言葉が、酷く優しく響いて。







夢など見ないほうが幸せとわかっているのに、その言葉は。


見ないでいることもできないほどに、黒子を幸せにするのだった。





 

PR
コメント
コメントフォーム
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード
トラックバック
この記事にトラックバックする:
© [ BLUE MIRAGE - bm-pastel ] 忍者ブログ [PR]