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ので、拍手とキリ番機能は停止させてもらいました。今までコメントありがとうございました!嬉しかったです!
更新は予約してますので、これまで通りにちゃんといくと思います。
暫く連絡は取れなくなりますが、これからも、よろしくしてくれたらうれしいです。
黒子が目を覚ますと、そこは、白い部屋だった。
厳密に言えば薄らと青みがかったカーテンだが。
部屋にしては狭いから、カーテンの先には恐らくまだ別の空間が広がっているのだろう。
顔を横に向けると、点滴の台があった。
そこから管が自分の腕に向かって伸びている。
頭がぼんやりしてはっきりしないが、恐らくここは病院だと見当をつけた。
上半身を起こす。
それだけで少し頭がぐらぐらする。
腕にガーゼが巻かれていて、少しヒリヒリした。
多分倒れたのだ。
誰かに運ばれたか、さもなくば、救急車か。
その疑問はすぐ後に解消されたのだが。
がら。
引き戸を開ける音がした。
「あ?どこだよ」
「ちょっと声抑えてッス!病室なんスから」
「一番奥の右手だって。ホント、静かにしてよね、迷惑になるでしょ!」
「っせーなー」
「それぐらいわきまえろ」
賑やかな声だ。
ああ彼らだと、わかる。
頭に手をやって、軽く髪を整えた。
点滴の管が酷く邪魔だ。
「もしもし…テツ君?」
「大丈夫ッスかー?」
カーテンが開いて、見知った姿が現れる。
黒子の姿を見るなり、桃井は飛んで来た。
「テツ君!!大丈夫なの、起きてていいの?」
「…ええ、まぁ」
「おいさつきうるせーぞ」
「だって!仕方ないじゃない!!」
青峰の理不尽な物言いに桃井はむきになって反抗する。
まあまあと、黄瀬が仲介に入って、その間に、緑間が黒子の顔に手を伸ばした。
「…顔色が悪いな」
「…鏡がないので、わかりません」
「調子はどうなんだ」
「…あまり、よくはないですね」
「黒子っち、今日早退したでしょ?その途中で倒れて救急車で運ばれたんスよ」
「…そうでしたか」
「家族に連絡が取れないからって学校に連絡来たの。だから部活無理やり切り上げて来たんだよ」
「……よかったんですか」
「おかげでオレ達は明日特別メニューだがな」
「もーそんなこと言うことないっしょ!?」
無神経な物言いに、黄瀬がすぐに反抗する。
周りの迷惑になっているだろうなと思ったが、止めてしまうのがもったいなくて、黒子には声がかけられなかった。
「過労で熱中症だってよ。ちゃんと食ってんのか?」
「…少しは、食べていたんですけど」
「馬鹿か。食べれなくなったなら早めに言うなりなんなりしろ」
そうすれば赤司も考慮しただろうし、栄養剤で賄うことも可能だったと、緑間は言う。
「暑さで死ぬこともあると知らないわけではないだろう」
「そんなに年ではないんですけどね」
「ふざけるな」
「弱ってたらどうしようもないッスよー…」
「…すみません。少し、軽視しすぎてました」
真面目に寄せられるいたわりの眼差しに、黒子は正直に降伏した。
優しい人たちなのだ。
本当に。
「そうだよ、もう無理しないで。心臓、止まるかと思ったんだから」
「救急車とか大事だよな」
「ほんとッスよ」
「一回乗ってみてーけど」
「馬鹿か。遊びではないんだぞ」
「青峰っちには無縁そうッスね…」
青峰はあくまで気楽そうだ。
物珍しげに、病室を見ている。
それでも、心配してここまで来てくれた。
その事実が、黒子を嬉しくさせる。
「で、もう大丈夫なんスか?」
「…大分、落ち着いたと思いますよ」
「おいおい、平気なのかよ」
「平気ですよ。そんなに、大事にしなくていいです」
「でも点滴までされてるじゃないッスか」
「栄養状態が悪いのだろう」
まったく、と、腹立たしげに緑間が言う。
黒子には言い返す言葉がない。
「…でも、よかった。ちゃんと、元気そうだね」
桃井は、布団の外に出されている黒子の手を取る。
俯いて、もう一方の手で、浮かんできた涙を拭った。
気が抜けたのだろう。
一度溢れた涙は、ぽろぽろと、続けて流れる。
「救急車で運ばれたって聞いたから。すっごく、心配した」
「……すみません」
「泣くなようっとーしーな」
「青峰っち!もー!!」
黄瀬は桃井の背をさすってやる。
今の黒子にはそれがしてあげられないから。
黒子は桃井の手をそっと握り返して、大丈夫だと、伝える。
「少し休めば元気になります。すぐに戻りますよ」
「…うん」
「ホント無理すんなよ?」
「…はい」
「まあこれだけのことになったなら赤司も考えるさ」
「ホント危なかったッスよね。車道で倒れてたら、ちょっと恐ろしーッスよ」
「死んでいたかもしれんな」
「もーやめてよ!想像させないで!!」
半泣きで騒ぐ桃井に叱られて、2人は黙りこむ。
まったく困ったものだ。
「まあ、大丈夫だったからできる話ですからね」
「ホントだぜ。ほんと頼むから、んなことにはなんなよ」
「気を付けます」
わしゃわしゃと、頭を撫でられて。
少し頭がぐらぐらするものの、心地よかった。
「っあ!お見舞いとか、何にも買ってきてない!」
「あー、なんか売店で買ってこよっか?」
「そだね。テツ君、何か欲しいものある?」
「いえ、そんなに気を使ってもらわなくていいですから」
「構わん。こんな時ぐらい素直に甘えておけ」
「そーそー。どーせ黄瀬に買わせるし」
「ヒドッ!!」
「お願いきーちゃん!持ち合わせあんまないから!」
「いや桃っちはいーんスけど…。…まーもう諦めてるッスよ」
「だからいいですって」
「とりあえずスポーツ飲料とゼリー、ヨーグルトでも買って来い」
「そーだな、それぐらいなら食えそーか?」
「…キミたちボクの話聞く気ないですね」
「オマエだってオレ達の忠告聞いてなかったんだろーが」
図星をつかれて、黒子は黙り込む。
結局黄瀬と桃井が選びに行くことになって、病室から出て行った。
後に残された青峰はなんとなく点滴に手を伸ばす。
「コレ痛くねーの?」
「今は全然気になりませんね。多分、抜くときは少し痛むでしょうけど」
「ふーん」
「基本点滴とはそういうものだ」
長いコードを手で弄ぶ。
ぽたん、ぽたんと、滴が落ちる。
「…赤司は部活の監督があるから来れないと言っていた」
「ああ、そうだろうと思います」
「紫原の方は今日部活来てなかったからな。オマエが倒れたこと知らねーと思うぜ」
「それも、予想できますね」
「困った奴だな」
「ま、ここせめーし。アイツ来たら入る隙間ねーって」
「それだと凄く太ってるように思えますね」
「まあ体重は重いよな。デカくて筋肉あるから」
「小児病棟になんか来たら子供が泣きそうですよ」
「アイツ目つきわりーしな」
「取り繕わないからな。赤司の方が不気味だと思うが」
「彼は外面いいですから」
黒子はため息をつく。
どちらにも大して文句を言う気にはならなかった。
これだけ来てくれただけでも凄い。
「…来てくれて、ありがとうございました」
「…今更だな」
「何他人行儀になってんだよ」
「いえ。部活も、休ませてしまいますし」
「どーせ後でツケ払うから一緒だって」
「一言文句を言ってやらなければ気が済まなかったからな」
「…ホントは心配だったんだろ?」
「余計な勘繰りをするな。オレはオマエとは違う」
「別に心配したって変じゃねーだろ。同じチームだぜ?」
「まあ、チームってだけならボクが辞めれば喜ぶ人はいるんですけどね」
「辞めんなよ」
「…辞めませんよ」
「オマエがいなくなったらつまんねーからな」
「能力の劣る奴らに居場所を譲る必要はないだろう」
「…キミたちは、シンプルでいいですね」
「めんどくせーのはだりーだろ」
「当たり前のことを言っているまでなのだよ」
そうこう話していると、ドアが開いて、2人が帰ってきた。
「買ってきたッスよ~」
「はいテツ君!しっかり食べてね」
「…ありがとうございます」
渡された袋はいっぱいだ。
「…買いすぎじゃね?」
「ヨーグルトは期限内に食べないとまずいんで、常温保存もできるゼリー多めにしといたッスよ」
「…ありがとうございます」
「…まあ、これだけ買っておけば食べるだろう」
「そーかもな。無駄にすんなよ?」
「…頑張ります」
「でも、無理しちゃダメだからね!」
桃井の配慮に、黒子は笑った。
まったく優しい人ばかりだ。
「では、帰るか」
「えーもう帰るんスか?」
「いつまでもいても邪魔だろ」
「そりゃー2人はずっと話してたからいいかもしれないけどさー」
「でも、テツ君休ませてあげたほうがいいよ。もうすぐ晩御飯も来るだろうし」
「食えんのか?」
「食べやすいメニューにされるだろう、それぐらい」
「一応点滴もしてますから。大丈夫ですよ」
「…じゃあ、お大事にね」
「…本当に、ありがとうございました」
「早く良くなってね」
「じゃーまたな。ちゃんと食えよ!」
「ではな」
手を振って、その背を見送って。
ベッドに身体を沈めると、残り少なくなった点滴を見やった。
本来ならバスケをしていたはずの時間。
彼らと時を過ごせたのはよかったが。
早くバスケをしたかった。
身体は重いのに、心はそのことばかり考えていた。