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ので、拍手とキリ番機能は停止させてもらいました。今までコメントありがとうございました!嬉しかったです!
更新は予約してますので、これまで通りにちゃんといくと思います。
暫く連絡は取れなくなりますが、これからも、よろしくしてくれたらうれしいです。
「黒子」
すっかり日も暮れた体育館で、未だ1人練習を続ける黒子に、火神は声をかけた。
黒子はボールを投げる手を止め、火神を見返す。
「火神君」
「そろそろ帰るぞ」
「…はい」
用具を片付け、鍵を閉め、着替えを済ませて、帰路につく。
日は完全に落ちていて、ビルの明かりが眩しい。
帰宅ラッシュが落ち着き始めて、歩くもののいない歩道を2人は行く。
取り留めもないことを喋りながら。
「夏場は飲みモンが全然たりねーよな…」
「そうですね…。鞄も重くなりますし」
「ホントだぜ。っつーか日本の夏があちーんだよな」
「そうらしいですね」
「おー、めちゃくちゃ暑いぜ。なんつーの?汗が噴き出るみてーな。
まぁバスケしてたらいっつもそんなんだけどな」
「湿度が高いかららしいですよ」
「シツド…」
「…空気中の水分量の割合です」
「へー。そんなに違うもんなのか?」
「ボクは外国に行ったことがないので知りませんけど。湿度の高さならサウナとかはかなり高めなはずですが」
「…あれはあちーな。成程。なんかわかった気がする」
「湿度は確か中学の範囲ですからね…」
ぐだぐだと喋りながら歩けば、あっという間に帰り道が別れる地点までやってきてしまった。
最近は日も長いこともあって遅くまで練習をするので、余りマジバに寄らなくなっている。
先に足を止めたのは黒子だった。
火神は数歩歩いて、振り返る。
黒子は真っ直ぐに火神を見つめていた。
「…どうした?」
「…いえ…」
「…なんかよからぬこと企んでるんじゃねーだろーな」
「何を企むんですか」
黒子は呆れて呟く。
視線を外し、足元を見た。
別れてしまうのが、惜しかった。
最近、黒子はそんな風に思うことが多くなっていた。
クラスも部活も一緒で、十分すぎるほど一緒にいるはずなのに。
「なぁ、オマエ、」
寂しいのか、と続けようとした時、角から高速の自転車が飛び出してくる。
「っ!!」
「うわっ!!」
すんでのところで自転車を避けた黒子を、火神が抱き止める。
自転車はスイマセンと謝罪したものの、急いでいたのかそのまま走り去った。
危ねーなとぼやきながら、火神は自転車を睨んでため息をつく。
腕の中に抱えた黒子はそのままに。
黒子に声をかけようとして視線を下した火神は、その時になって初めて状況を理解した。
薄手のシャツから伝わる、黒子の体温、吐息。
わかっているつもりだったが、黒子は驚くほど軽く、小さかった。
腕の中にいながらも存在を忘れてしまいそうな希薄さ。
言いようのない庇護欲に駆られ、火神はそのまま黒子を強く抱いた。
黒子は抵抗もせず、大人しくされるがままになっている。
柔らかい髪がくすぐったい。
襟元から覗く白い喉元があまりにも扇情的で、火神はつい、そこに口をつけてしまった。
びく、と黒子が震え、それがあまりにも可愛らしくて、筋に沿って舌を滑らせる。
ぞくぞくと背筋を襲う感覚に耐える黒子から、少しだけ身体を離した。
火神は欲望に忠実に黒子の顎に指をかける。
そしてそのまま口付けた。
暫くそのまま動きを止めて、やがて火神は黒子から離れた。
黒子は呆けた表情で、唇に指をあてる。
その動きが異常にいやらしく感じられて、火神は頭に血が上るのがわかった。
じゃあなと言い残し、慌ててその場を去る。
「…待ってください!!」
腕を掴まれる。
嫌な予感をこらえながら振り向けば、黒子が切なげに自分を見上げている。
馬鹿、煽んなと思いながら、何だよとぶっきらぼうに言い返した。
仕掛けたのは自分なのに自分でも意味が分からない。
なんでこんなことをしてしまったのか。
なんでこんなにも、黒子に触れたいと思うのか。
「…好きです」
「!?」
もうわけがわからない。
「好きです、火神君」
真っ直ぐに自分を見上げる黒子に誘われて、火神はもう一度黒子と唇を合わせた。
熱く、柔らかな唇。
もっと、もっと欲しい。
自分の中にどうしようもない熱がある。
それを誰かに対して意識したのは初めてで、火神は戸惑いながら、口付けを終えた。
そして再び抱きしめる。
黒子の手が背に回されて、少しだけ頭が冷静になった。
往来で、いったい何をしているんだオレたちは。
何か言わなければならないと思って、そういえば返事をしていないと気付いた。
明らかな欲情。
欲しいと、もっと触れたいと思う、この気持ち。
きっと同じだ。
そう思う。
女など面倒なだけで恋愛などに興味はなかったが、この気持ちはそういうものなのだと本能で理解した。
腕に力を込め、身体を離す。
「…俺もだ」
黒子が弾かれたように火神を見上げた。
その顔に浮かぶのは、明らかな喜び。
火神は、本当にどうしようもなく、自分は恋に落ちたのだと自覚した。
どうして、こんなに、嬉しいと思うんだろう。
黒子をもう一度抱きしめて、今日はもう遅いから気を付けて帰れと言い添える。
妙に素直に頷いて、黒子は踵を返した。
その後ろ姿を目でただ追う。
黒子が少し行って振り返り、火神が自分を見ているのを見て笑った。
そして手のひらを掲げる。
暗い夜空に、白い掌がひどく映えた。
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